法務局のお兄さんが、3階の控え室から2階の試験場まで連れていってくれた。
ノックしてから入り、荷物は入って右側のスペースに置くように言われた。
強めに2回ノックした。
「どうぞ。」
優しそうな声が返ってきた。
「失礼します。」
緊張するというより、さっさと終わらせて、メシを食いに行きたかった。
向かって右側、50代くらいの白髪の男性。
向かって左側、40代くらいの眼鏡の男性。
ふたりとも優しそうな顔をしていた。
ぼくの味方だと思った。
ぼくは人を人相で判断することにしている。
向かって右側の試験官に、荷物を置くように言われた。
カバンを机に置いて、コートをハンガーにかけた。
イスの横に立つと、試験が始まる。
※向かって右側の試験官→右
※向かって左側の試験官→左
※口述試験の記憶はあいまいです。再現率は50%程度です。
右「では、受験番号と、お名前をおっしゃってください。」
生年月日は聞かれなかった。
私「えー、受験番号7014、山下奈央です。」
右「はい、どうぞお座りください。」
私「よろしくお願いします。」
右「今から私の言うことが早口で聞き取れなかったり、聞き逃したりした場合は、遠慮なくおっしゃってください。
お手元にエンピツとメモ用紙をご用意しましたので、必要であればお使いください。」
私「はい。」
右「それでは私からご質問します。
まずは、不動産登記法の『所有権保存の登記』について、お伺いします。
所有権保存の登記というのは、どのような登記でしょうか。」
哲学か?
私「はい、所有権保存の登記ですね‥ まず、権利区の最初にする、登記で‥ あのー、所有権移転ですとか、抹消ですとか、そういう‥ その後の登記の‥ 前提となる登記です。」
ぼくとしてはうまい返しだ。
この調子だ。
右「はい、では、所有権保存の登記には、登記原因と日付が登記されませんが、考えられる理由はなんでしょうか。」
考えたこともない。
しかし、何か答えなければならない。
私「はい、所有権保存の登記の、原因と日付が登記されない理由、ですか‥ えー、そうですね、やっぱり、最初に登記する登記なので、問題にならないというか‥ その‥ 何というか、申し訳ありません、わかりません。」
何の答えにもなっていない。
右「そうですか、わかりました。では次に、所有権の、共有者の一人が、自分の持分だけ所有権保存の登記をすることはできるでしょうか。」
私「はい!できません!」(にんまり)
右「はい、では、その理由はなんでしょうか。」
根拠条文が違うとかだったか?
いや、それは別の話だ。
私「はい、理由、ですか‥ いや、それは‥ 理由までは、ちょっと‥ 申し訳ありません、わかりません。」
右「そうですか、わかりました。」
右「緊張してますか?」
私「いえ、あの‥ 落ち着いております。」
右「(にっこり)はい、では次に、『区分建物』の所有権保存の登記についてお伺いします。
区分建物の、表題部の所有者が、区分建物を譲渡しました。譲り受けた人は、所有権保存の登記をすることができるでしょうか。」
私「区分建物の所有者が、直接、譲渡したということでしょうか‥?」
右「はい、そうですね。」
私「はい、できます。」
右「はい、では、その理由は何でしょうか。」
さあな。
私「はい、理由は、やはり‥ ちょっと、そこまでは‥ わかりません。」
右「根拠となる条文はわかりますか?」
私「74条‥ 不動産登記法の、74条2項です。」
右「はい、わかりました。では次に、商業登記法についてお伺いします。」
次回に続く。
おれは人としゃべれないんだ。
何かの病気なんだと思う。